葵が中学に上がって間もない頃、葵はひどい虐めを受けていた。
普段はほとんど何もしゃべらず、たまに何もないところでぶつぶつ一人ごとを言う。泣いたり笑ったりせず常に無表情。
そんな光景が同じ中学の同級生には気味が悪かったんだろう。
葵は感情のない人形のように何をされても感情を出すことはなかった。
でも戒は葵を庇った。
靴を隠されればともに探し、机の心無いの落書きは葵が見る前に消した。
庇えば庇う程いじめは激しさを増す、いつしか戒も葵と同じように虐めの対象となった。
そんななか二人で一緒に帰る帰り道のことだった。
相変わらず会話の無いまま二人は帰っていく。
一緒に帰っているというよりは一人で帰っている葵に戒が付いて行ってる感じだった。
戒は傷だらけ。葵の制服はひどく汚れている。
「もう…いい…。」
背中ごしに葵はつぶやいた。
「もういいって何がだよ。またクラスのやつに何か言われたのか?そんなん気にすんなっていつも言って」
「もういい!!」
葵は普段から想像もつかない声で戒の言葉を遮ぎった。
「もう…、もう私に…かまわないで。」
葵は肩を震わせていた。 顔は見えないが恐らく葵は。
「構うなって言っても、ほっとくとまたクラスの奴らに酷いことされるだろうが!そんなん見過ごせるかよ。」
少しの間沈黙が続いた。
葵は鼻をすすっていた。
「戒が…戒が庇うから…。一人なら…いつか…いつかみんな飽きる。」
「なっ!」
戒はショックだった。
守っているつもりだった。
助けているつもりだった。
でもその対象からは自分が虐めを助長していると言われている。
「そうかよ。迷惑かよ!葵!!」
戒は葵の肩を引っ張り無理やりこっちを向かせた。
葵は涙で顔がくしゃくしゃになっていた。
「ちっ!」
戒は葵を置いてその場を走りさった。
それからである葵と気まずい関係になったのは。
確かに虐めは戒が庇うのを止めたら1ヶ月ぐらいでなくなった。
相変わらず葵は一人であるが。
現在高校でも同じクラスだが、戒は葵に話しかけないようにしている。
あの事件がなければ葵ともうまくやれていたんだろうか。
戒はそんなことを考えていた。
「こらー!戒兄!また勉強しないでゴロゴロして。戒兄はやればできるけど、何もやんなかったら何にもなんないよ!」
戒の後ろで明が頬を膨らませていた。
「うるせぇよ。」
戒の夏休みはこうしてまた1日過ぎていった。