次の日も、また次の日も魔法の特訓は続いた。
あれからあまり進歩は見られなかった。
できるのは相変わらず物の温度を上げるだけ。
火を、炎を出すことは一向に出来なかった。
「明日夏休み最終日だけど明日も特訓するかい?」
明日で夏休みが終わるのか…
でも明日は
「悪い。明日は約束がある。」
そう、夏休みの最終日はやっと暇になった友人たちと約束があるのだった。
「そうか。まあ、高校最後の夏休みだしな。楽しんできてくれよ。」
「ちっ!」
遠ざかる池見の車を見送りながら戒は舌打ちをした。
戒はいらついていた。
研究の成果が出せず、ただ時間だけが過ぎていく。
気が付けばもう夏休みも終わる。
自宅への道中、戒はふとあることに気が付いた。
しかしどうして自分はこんなにもいらついているのだろうと。
研究の成果がなかなか出せず、夏休みも終わるが、研究は学校が始まってからも継続する。
まだ焦る必要はない。
第一あれほど望んだ日常から外れた道だ。
喜びこそすれ、いらつくことはないはずだ。
ならどうして自分はこんなにもいらついている?
ああ、そうか…。
そうだったんだ。
戒は自分自身の答えに納得した。
欲しかったのは日常を壊すもんじゃなかったんだ。
欲しかったのは自分自身の価値という形の無いものの証明。
池見に自分は特別だと言われたときうれしかった。
初めて魔法が使えたときうれしかった。
それらは全部自分自身に価値があると思えたときだった。
思えば多分それは昔から欲していた。
葵のときも庇うことで自分の行動の価値を求めていた。
その価値を否定されたから守ることを止めたのだ。
今いらついてのは研究の成果が出せないことで自分の価値が揺らいでいるような気がしているからなのだろう。
戒は自宅に帰るまでそんなことを考えていた。