ドレスは燃え盛るような緋。
これを着て踊れば、その人の情熱を燃え上がらせるのだ。
無論、恋する人の想いも燃え上がらせる。
これはそんな色のドレスをよく着ていた、とある女の話だ。
――髪の長い美しい女性であるメイサは紅いドレスを古着屋で見つけた。
メイサがよく来るこの店は穴場で、様々な服が安く売られているのだ 。
メイサは迷わずにそのドレスを買った。
―数日後―
「ラクトさん!早くこっちに来て」
「はいはい」
「はいは一回で十分よ」
メイサは明るい、太陽のような笑顔で優しい彼氏のラクトに微笑んだ。
彼女の美しい微笑みに、彼はおもわず見とれてしまう。
「あっ」
彼女の白い帽子が風でとばされてしまった。
そして、風に揺れる白いロングスカート…。
それは恋人たちの優しい時間だった。
彼は帽子を少し背伸びして運良くキャッチすると彼女に手渡した。
「ラクト!大好きよ」
帽子を受け取り、振り返って微笑む彼女。
そして、それを見る彼の目もまた優しかった。
けれどそれも長くは続かなかった。
―2か月後―
君だけを…愛しているよ…。
ラクトが言った、たくさんの「愛してる」は彼女の心を温める。
だが、いつしかそれは、別の何者かの声に書き消されようとしていた。
緋い血を…私によこせ…。
それは徐々に彼女の心を黒く蝕んでいく…。
彼女はそれを必死に押さえようとしている。
しかし、それすらも出来なくなりつつあった…。
ラクト…助けて…。
彼女の救いを求める声すらも、何者かの声に書き消されていった。
―3か月後―
ラクトはメイサの家で、疲れのせいか思わずソファで寝てしまっていた。
しかし目覚めた時、側にメイサはいなかった。
「メ、メイサ…?」
背後から息遣いが聞こえる。
しかし何か様子が変だった。
「フフッ、ラクトさん…愛してるわ…」
女はナイフを持ち上げると妖艶な笑みを浮かべて、ためらいもなく降り下ろした。
男の首から血飛沫が上がった。
また、白い壁には赤い染みが浮かんでいた。
「メ、メイサ…なぜ…」
男の顔は驚愕に彩られたまま、そのまま前に崩れ落ちた。
女も後を追うように感情の抜けた顔で自分の心臓に一刺した…。
一筋の涙が、彼女の閉じた瞼から滑り落ちていった。
「ラクト…ゴ、メン…ね…」
一緒に天国に行けそうにないよ…。
ドレスは二人分の血に染まっても、黒く染まらず赤いまま。
すると突然、甲高い女の笑い声が聞こえたかと思うと、赤いドレスが独りでに脱げていった。
スルッ…スルスル…スルッ…。
服がフワッと宙に浮かぶと突然、空中でドレスが消えた。
そう、それは愛しすぎて狂ってしまった女の遺品だったのだ。
…あの店は、そんな服を扱うこともあるお店。
それ以来、数々の心中事件が起きてきた。
「いやぁぁぁー…!」
…私にもっと悲鳴をちょうだい…
…それは全て、このドレスのせいかもしれない。