(今ここにいる少年が捕獲対象であるとは限らない……こいつを耕太の姿に仕立て上げることで、仕掛けた罠の可能性が大きいからだ)
そう冷静に分析すると、ソラは苛立ちを隠しもせず、叩きつけるように耕太の腕を突き放した。石畳に少年が身を横たえるのを見もせず、城の方角へ向かって全速力で走り出す。
(私達を撹乱し、その間に城へ侵入するつもりね)
舞子様の身が危ない……。それだけを心の柱として打ち立て、ソラは白の乙女達全員に城へ戻るよう、合図を飛ばした。
「うまくいったな」
一際大きい家の屋根の上に立った耕太は、自分の仕事ぶりに、満足そうににんまりと口角を上げた。
「耕太、何か忘れてない?」
一方、隣に座る美香は、真剣な顔をしながらも、少しだけからかうような瞳で耕太を見上げる。
「えー、……何だっけ?」
「打ち上げ花火」
「あー、そっか!だよな!すっかり忘れてた」
耕太が人差し指を空へ向けると、そこにぽう、と火の玉が灯り、空へ向かってパシュッと小さな音を立てて発射された。
間もなく、ドオオン、と腹の底を打つような重い音が鳴り響き、赤い花火の大輪がラディスパークの青空いっぱいに広がる。
「もう何発かお願い」
「わかってるって。師匠たちに見えてないといけないもんな」
耕太は言葉の通り、さらに五、六回花火を打ち上げた。想像の力を働かせているため、昼間でも火花はくっきりと空に映える。
ジーナや王子と別れる前、再び四人が集うことの合図に、空に花火を打ち上げることを、耕太が提案したのだ。そして四人は、例えどこにいようと、花火の光を確認したら、それぞれコルニア城へ向かう手筈になっていた。
美香はじっと花火を見つめる。その瞳に弾ける光は力強く、しかし、どこか暗い影が付き纏っていた。
耕太は美香を見下ろした。何か言おうと口を開くが、結局うまい言葉を思いつけず、目を泳がせ、代わりに別の言葉を口にする。
「花火ってさ、よく考えたら一瞬で消えるよなー。ちゃんと見えてるといいけど……」
「そうね。でも、きっと大丈夫よ、あの二人は。誰かさんと違ってしっかりしてるもの」
「あ?誰のこと言ってんだよ」
耕太は思わず頬を引き攣らせたが、す、と立ち上がった美香の表情を見て、口をつぐんだ。
美香は微笑みを浮かべながらも、いばらのように冷たい表情をしていた。