飛び散った赤い色。
視界は、
赤で満たされた。
その赤は
彼にも付着していた。
その彼に付いた赤を全て舐め取りたい衝動に駆られたが、
ひとまず我慢した。
「……お前は、何がしたいんだ?」
彼が言った。
訴える瞳には、少し恐怖がみえる。
その恐怖が私に対してのものだとしたら、
少し腹が立つ。
「……答えろよ!!」
彼が怒鳴る。
そして彼の目線の先には、先程 赤い色を飛び散らせた本人がいる。
首の辺りを真っ赤に染めた、髪の長い、女。
無様だこと。
「あっあっっあぅ……っ」
彼が、その無様な姿の女に対し 嗚咽を漏らしながら、泣いていた。
少し疎外感を覚える。
そして、人間以下に成り下がったというのに まだ彼を惹き付けるこの女に、
また憎悪が生まれる。
ああ、憎い。
この女は、いつもいつもいつも、私の幸せを奪っていく。
私の周りから、何かを剥ぎ取っていくんだ。
幸せなクセに。
私はお前みたいに、幸せじゃないのに。
私には、彼しかいないのに。
何故いつも邪魔ばかりするの。
何故私を幸せにしてくれないの。
何故私は幸せになってはいけないの。
何故いつも、この女が……。
この女が悪いのに、私ばかり責められてきた。
ずっと昔から。
いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも、
この女が!!!!
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い、
この女!!!!!!
私は、もはや生き絶えていると思われる この女の胸に、既に赤く染まったナイフを思いっきり突き刺した。
今度は、赤い色は勢いよく飛び散らなかった。
「……っっぁああぁぁっ!!!!!!」
彼は顔を押さえてうずくまった。
涙を流しながら。
「も、もうやめてくれ!!俺が悪かった……!!だから、もう……っ」
そんなにも、この女が大切だった?
……呆れてしまうわね。
この期に及んで、堂々と彼女の前で、他の女が大切だと晒すなんて。
貴方も、憎いわ。
「お願いだから、もう……やめてくれ」
必死に懇願する彼。
私は、
どうすればいい?
「ごめん……本当に、ごめん……」
……それは、どちらに対しての謝罪かしら?
まあ、どっちみち変わらないけど。
私は彼が好きだった。
優しい彼が好きだった。
私を愛してくれる、彼が好きだった。
だから少しの浮気でも、許してあげた。
彼にとっての一番が、私だからと信じて。
でも、それももう終わり。
彼とこの女が、一体どこまで進んでいたのかなんて知らない。
知りたくもない。
でも、
この女も、
……彼も、
許せないわ。
みんなみんな嘘つき。
大人になって、みんな卑怯になった。
こんなことなら、大人になんてなりたくなかった。
みんな、嫌い。
この女も、
彼も、
……私も、
みんなみんな
消えればいい。
……消えようか。
何事からも 逃げて。
「…………?」
彼が、怯えながら 怪訝そうに私を見てる。
私、疲れちゃった。
もう なにもかも。
だから私、
消えようと思うの。
このせかいから。
あなたも一緒に
きてくれるわよね?