幼い頃の思い出を数えれば両の手で足りるほどである。
オオカマキリに挟まれた指の赤紫、体じゅうに巡らされた電極の赤や黄。そして私をどこかへ連れ去るような空の青。
空を見上げた私は一瞬自分の居場所が分からなくなった。私はなぜここにいるのか、自分が透明になったような気がした。そして世界が急によそよそしいものに感じられた。
暫し呆然とした後、私は夏草の匂いを感じた。私の住む団地の前のいつもの空き地にいた。
私はその夏、5歳になった。
10年後、世界は再び私によそよそしさを見せた。私は秘密を抱えていた。
倒錯、世間ではそう呼ぶかもしれない。歪曲的な表現として。
私は彼女を敬愛した。不確かな世界の揺るがないものとして。
「私を好き?」
彼女の問に応えるため、私は優等生を捨て、幼なじみを捨てた。
「私を好き?」
彼女の僕として恥ずかしくないよう、マニキュアを塗り、ピアスホールを開けた。
「私を好き?」
彼女を見つめるのが苦しくて、私は男にキスをした。
10年後、主を失った私は森の中にいた。
軽快な音楽が風に乗ってやってくる。その向こうに私は光を見た。
草原からの風を感じる。また夏がやってくるのだ。