……ドキドキ
とっさに目を瞑った私は唇に全神経を尖らせた。
恥ずかしさと期待で心臓は太鼓のように鳴っている。
「…槇原さん?」
ふと名前を呼ばれ反射的に目を開けると、少し困ったように眉を下げた綾川くんがいた。
てっきりキスされるかと思った私は穴があったら入りたいくらい恥ずかしさが込み上げてきて、真っ赤になった頬を隠すように手を顔にあてた。
「…ごめん」
何故か綾川くんが謝る。
「…………。」
「…………。」
沈黙が続く中、ジャズが店内に流れている。
「………好き…デス」
!?
沈黙を破ったのは無意識に私の口から出た告白だった。
私は突然の自分の告白に驚き、目の前にあるココアのカップを凝視した。
頭が真っ白とはこういう事かと思うくらい思考回路が断絶されている。
再び訪れた沈黙の中で、私の視界は歪みだす。
涙が目に溜まってきた。
隣にいる綾川くんの様子なんて怖くて見れるわけない。
「…………ま」
「帰るね!ココアありがと!」
ガタンッ!!
「ちょっ…え?」
椅子から立ち上がり、コートを手に取ると振り返りもせずに店のドアへ早歩きする。