「くくくく…世界にはまだこんな楽しいことがあったんだぁ。」
男は不気味な笑みを浮かべながら下を見て何やらブツブツと呟いていた。
戒の限界は近い。
本当ならすぐにでも男をぶちのめしたいのだが身体が動かなかった。
ギロッ!
不意に男の狂気の目が戒へと向けられる。
「で、それはどうやって手に入れたのかなぁ?戒にい君?」
どうやって手に入れたのかだって?
そんなことをこんな男に教えてやるつもりはない。
「誰が…てめぇなんかに言うかよ。」
はぁ、と男はあからさまなため息をついてわざとらしく頭を押さえる。
「もう一度だけ聞くよ…」
男はすぅっと目を閉じる。
そして目を開いた次の瞬間…
−どうやって手に入れたんだ。−
恐ろしいほどの殺気ともに、男の声が直接戒の頭に響く。
「か…は…」
全身を焼き尽くしような殺気、それだけで人を殺せてしまえそうな殺気が戒を襲った。
「俺に…」
言葉は戒の意志とは関係なく口から漏れてくる。
「俺に…魔法を…教えたのは…」
ガッシャン!!
居間のガラスが割れる音と共に一つの黒い影が飛び込んでくる。
肩まで伸びた黒い髪。
綺麗にそろった前髪。
全てを吸い込む漆黒の瞳。
夏休みなのに何故着ているのか分からない学校の夏服。
腰にぶら下げた身長に似合わず長い刀。
戒の目に映ったのは戒のよく知っている幼なじみの姿だった。