郊外にある、姫乃木高等学校。校庭の木で、うるさい程セミが鳴いてる八月半ば。
「あ・え・い・う・え・お・あ・お」
「か・け・き・く・け・こ・か・こ」
知る人ぞ知る、知らない人は知らない…。当たり前だが…。そんな発声練習が、校舎内に響く。
「あめんぼ赤いな、あいうえお。浮きもに子海老も泳いでる」
「柿の木栗の木、かきくけこ。梅の実落ちても見もしまい」
昔は(作者談・笑)僕もよくやりました。
演劇部は、女子中心のクラブと言っても過言ではない。茜が所属する姫乃木高等学校演劇部も例外ではない。
「…と言う事で明日から文化祭の稽古に入るからね」
茜が台本を取り出した。
一ノ瀬 茜(いちのせ あかね)。現・演劇部副部長で次期部長の女子高生。宝塚歌劇の娘役が将来の夢である。
「配役は、月曜日に発表した通りです」
今年の文化祭の公演は、広島で被爆した少年と出会った少女の物語「広島の詩」と言う、演劇部オリジナルの作品で、主役の少年は、部長の長嶺 葵(ながみね あおい)が演じる。