オバケ5

はこもの  2006-09-12投稿
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僕が初めてオバケに声をかけたのが8月の半ばで、それから6ヶ月が経ち、季節は冬になった。

外では蝉も鳴いていなければ、木々に赤い葉も付いていない。

その日、いつもの居酒屋は珍しく客でいっぱいだった。

オバケはまだ来ていないようだ。

「こんばんは」僕は店のオヤジに話し掛けた。「今日は混んでるね」

「いつもこうだといいんだがね」

ほとんどの客は楽しそうに酒を飲み、店の中はそういった雰囲気で満たされていた。

時計が今日の終わりを告げる時刻になると、客たちの半分以上は覚束ない足どりで、帰宅の途についた。

彼らが店の戸を開けるたびに、冷たい空気が入ってきた。

店の中の客は、ついに僕だけになった。

戸が開き、冷気と共にオバケが入って来た。

「日本酒と焼き魚」オバケは言った。「おすすめの魚を焼いてくれ」

「あいよ」

魚を焼くいい匂いが店中に広がった。

今日は随分遅かったな、とオバケに言った。

「俺にだって」日本酒を一口飲んだ。「用事の1つや2つくらいあるさ」

そういうとオバケは少し笑った。

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