「さ、行こうか。」
と、レクスは手を差し出した。
その手をリアは躊躇いながらそっととった。
リアたちは再びあの大広間にいた。
確かこれから始まるのは主役の挨拶に社交ダンス。
リアは隣にいるレクスを見上げた。
と、彼の黒い瞳と目があった。
レクスもリアを見ていたのだ。
不思議と安堵がよぎる。
それと同時に声が零れた。
「ねえ、私たちいつか会ったことがあった?」
「ないけど?
どうして?」
「ううん、何でもないの。」
そっか、とレクスが淡く微笑んだのとほぼ同時に会場が静まり返った。
視線の先にいたのは
「おば様……。」
リアは無意識に一歩下がっていた。
瞳には暗い色が浮かんでいる。
「リア」
優しく名前を呼ばれて、不安そうな顔を上げた。
ついレクスの手を握る。
羞恥なんて頭になかった。
ただただ不安だった。
(おば様は私の存在を認めて下さってない。
部屋に戻れって言われたのに、ドレスまで貰って、また帰ってきて……。
絶対怒られる。)
リアの心を占めた不安。
認められない恐怖。
レクスはそれらをなだめるかのように、リアの手を握る手に力を込めたのだった。