ノアはこれを好機と受け取っていた。
どうやら段蔵は、半次郎の中にひそむ無限の可能性に興味をもったようである。
今殺すには惜しいと考えているのであれば、この男との闘いは半次郎にとってまたとない経験になる。
ノアはそう判断していた。
「……よかろう。
だが、キサマの剣が邪な気をはなった瞬間、ワタシの剣がその身体を貫くと心しておけ」
剣を納めるノア。
だが、その身体からオーヴが消える事はない。
ノアの牽制を鼻であしらった段蔵も、同じように剣を納めていた。
剣を握りしめる半次郎は、その動作の意味を即座に理解していた。
それが、現時点での自分と段蔵との実力差なのだと。
「……いくぞ」
段蔵のつげた言葉を耳にしたのと同時に、半次郎は右の傍らに一陣の風が擦り抜けるのを感じた。
即座に反応して振り返る半次郎。
だが、その途上で腹部にはしった激痛に耐え切れず、片膝をついた。
「何だ、もう終りか?
俺はすれ違いざまに拳をあてただけだぜ」
見下ろす段蔵の言葉に、すぐさま立ち上がり身構える半次郎。
『速い、眼では到底追いきれない。
……ならば』
手にする剣を静かに地へ置くと、半次郎は目をとじて自然体にたたずんだ。
そして、研ぎ澄まされた彼のサイレントオーヴが、彼の周囲に張り巡らされる。