「あのぅ〜。すいません。トイレはどちらでしょうか?」
美穂は突然現れた女に尋ねられて驚いた。
何故なら、その女に見覚えがあったからだ。その女はテレビでよく観るバラエティーアイドルだった。
「うわ!ゆーこりん?ですよね?」
美穂は思わず聞いてしまった。
「はい。あの…」優子はモジモジと上目遣いで遼一の方を見た。
遼一は、相変わらす真っ直ぐ視線を返す。相手が芸能人でもそれは変わらない。
そもそも優子が芸能人だと気付いているのかすらも怪しい。
「あ、トイレならこっちですよ。案内します」美穂が気を利かせて優子を誘った。
「ありがとうございますぅ」
優子はペコリと頭を下げて礼を言った。仕草がいちいち可愛らしい。
「遼一さん。ちょっと行ってきますから、待っててもらえます?」美穂が言った。声が弾んでいる。遼一と同じホテルに泊まる事になり、妄想が暴走して間もないのと芸能人に会ったというアクシデントがそうさせたのだろう。
「うん。ここで待ってるよ。シンジ君達は多分食事の会場だろうから後で合流しよう」遼一はぼんやりして言った。
「はい。分かりました。それじゃ」美穂は言いながら思った。遼一さん何か考え事してるみたいね。早く帰らなきゃ…。
二人を見送って遼一は一人ぼんやり考えていた。
何で従業員でもない俺たちにトイレの場所なんて聞く?少し引っ掛かるな…。まぁ女性特有の理由も考えられるし…。深読みしすぎか。ちょっと疲れてるかも。
そんな事を考えているとジーパンに冷たい感触があった。
「きゃあ。ごめんなさい!大丈夫ですか?」
大きな声に遼一が振り返るとそこに女がぺたんと座り込んでいた。手元に花瓶と花が落ちている。床が水で濡れていた。
どうやら転んで花瓶の水をぶちまけたらしい。遼一が感じた冷たさはその水だった。
遼一はジーパンが濡れてしまったことより、目の前の女が気にかかっていた。
何者だろうかこの女は…。いや…女なのか…。
遼一は相手が発する気を読みきれないでいた。
「ホントごめんなさいね。あら濡れてしまって…」
女が近づいて来た。
イッコー率いるオカマチームの愛だった。