「王子がこそ泥の真似とは、堕ちたもんだな」
なじるような声に、王子はぎくりと背筋を伸ばした。
慌てて振り返ると、そこには腕組みをして、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべるルキの姿があった。
王子は思わず、ホッと肩の力を抜いた。
監査員の子供であったら、どうしようかと思ったのだ。しかし完全には警戒心を解かず、胡散臭いものを見る目で、じいっとルキを睥睨する。
「何だ、君か……」
「失礼な言い草だな。それよりお前、うまくラドラスに取り入ってるみたいじゃねえか。奴がここへの入り方を教える人間は、そう多くはないはずだぜ」
そう言いながらルキは、一度ちらりと扉の方を振り返った。さらに薄暗い部屋の物陰に誰か潜んでいないか、注意深く辺りを観察する。
その仕草に、王子はハッと思い至るものがあった。
王子も一度、保管庫全体に目を走らせる。それからルキを見据え、極力抑えた声で言った。
「来た時には誰もいなかったから、ここにいるのは僕だけだよ。だから、安心して話していい」
何もかも見透かしたような台詞に、ルキはぴくりと眉を上げた。
「ほう。ヘタレの割に、用件ちゃんとわかってんじゃねえか」
「……うるさいな。それで、答えは出たんだろ?君達の煮え切らないリーダーは、ついに腹を決めたわけだ」
そうやり返すと、ルキは瞬間、暗い目つきで王子を見下ろした。内心びくりと心が震えたが、王子は唇の内側を噛むことで、なんとか表に出すのを堪える。
しかしルキは、すぐに頭を切り替えたようだった。ルキはハントに比べると、冷静沈着である。現状において優先すべきことは何か考え、感情に流されず、的確に動くことができる。
それでもルキは、気に食わないという思いを顔中で表現しながら、ぼそぼそと言った。
「……まあ、そうだな。てめえの察しの通りだ。ハントからの伝言を預かってきた。直にまたあの女としゃべると、監査員様に感づかれちまうからな」
王子は目線で続きを促した。ルキはますますもって不本意だ、という顔になったが、一つ咳ばらいをし、きちんと伝言を告げた。
「――ハント本人に加え、彼の率いる治安部隊総勢四十五名、全員この戦いへ参加する。もちろん、覇王様を倒す側としてな」
「それじゃあ、」
「ああ。腹立たしいが、これからしばらくお前もあのジーナとかいう女も、俺達の同志だ」