揺るがない光の灯ったルキの黒い瞳を見て、王子は胸に希望が膨らむのを感じた。ばれないよう、背中に回した腕で強くガッツポーズを決める。そうなるだろうと予期していたこととはいえ、やはりどうなるか、不安ではあったのだ。
(よかった……本当によかった……!)
これで、圧倒的不利な状況からは、何とか脱却することができた。少なくとも、強制労働施設から脱出し、城へ到達することくらいはできるに違いない。
「それで、お前らに具体的な作戦はあるのか?俺がハントに伝えるから、あるなら今、ここで話せ」
どっかりと冷たい床に腰を下ろしたルキにつられ、王子も座り込み、片膝を立てた。ルキは腰紐から紙とペンを引き抜くと、王子に渡す。
埃の舞う暗く狭い部屋で、二人は額を突き合わせた。王子はまず、空へ上がる合図のことを話した。もちろん、それがなくとも明日には行動を起こすが、もし大音量で火花が散ったら、それはコルニア城へ侵入する合図だということを。それ以外は、治安部隊が仲間になった時のために考えておいた、大まかな人員配置図を、受け取った紙に強制労働施設の簡略地図を書きながら説明した。
しかしそれは、敵の正確な人数さえ把握していない者が作った、かなりずさんな計画だったらしい。ルキは、「そんな作戦が上手く行くと思っていたのか」と半ば本気で呆れ、作戦の穴を指摘し始めた。しかし王子も黙ってはおらず、二人はしばらく議論を続け、ようやく案がまとまった。
「後は、できる限りの準備をするだけだね」
「そうだな。なんならここにあるボール、全部持って行くか?奴らに武器を残してやることはねえ」
話している内に少しだけ親しみが湧いたらしく、そう言ってルキは笑った。ボールは天井まで届く六つの棚に納まったケースすべてに、何百、何千と詰め込まれている。「できるものなら、頼むよ」と、王子も笑い返したが、その時、突如保管庫の扉がバタン、と開き、治安部隊の青年の一人が飛び込んできた。
「おい、ルキ!空に変なものが上がってるってよ。まるで火でできた花みてえなもんが……」
ルキと王子は、瞬間、顔を見合わせた。二人の行動は素早かった。
王子はざっと麻袋を担ぐと、青年の脇をすり抜け、矢のように保管庫から飛び出した。度肝を抜かれたように王子の背中を見送る青年の厚い胸板に、ルキは今できたばかりの作戦地図を押し付けた。