「これを大至急ハントに届けろ。そして指示通りに動け!あと、保管庫のボールをできる限り運び出すから、何人かすぐ下りてくるよう伝えてくれ!」
「あ、ああ!わかった」
青年は混乱した様子だったが、副リーダーの気迫に、せり上がる問いをすべて飲み込んだようだった。鋭い戦士の顔つきになって頷くと、王子よりもさらに早く、弾丸の勢いで部屋を飛び出していく。
ルキは拳を心臓の上に当てると、深呼吸を繰り返した。
言いようもなく、武者震いがした。頭の中に像を結んだ、たった一人の敵に対して。
(ラドラス……)
彼の強さは尋常ではない。それは治安部隊の隊員であれば、誰もが知っている。なぜなら過去にラドラスは、ハントとルキの本気の喧嘩を、片腕一本で止めたことがあるからだ。
その時彼は、へらへらと笑っていた。まるで利かん気の息子を宥める父親のような、絶対的余裕がそこにはあった。「まあ落ち着こうや」と言ったその顔に、ルキは全身総毛立った。こいつには勝てない……。そう、そこまで克明に意識させられたのは、初めてのことだった。
「本気でやらねえと、マジでやられるだろうな」
ルキは引き攣った笑いを唇の端に浮かべると、筋肉の盛り上がった逞しい裸足の足で走り出した。向かう先は“青の混沌”。恐らく、ラドラスが守るであろうそこを制圧するために、ルキは全力で駆けた。
* * *
「何だ、あれ……!?」
監査員の少年は、青白い顔をさらに蒼白にしながら、窓辺によろよろと近づいた。四角く切り取られた空には、ちらちらと輝く赤い火花が踊っては、消えていく。遠くから呼び掛けるように、どおーん、どおーん、という重低音が耳の底を打った。
「まあ、花火ってやつでしょうねえ」
たまたま監査員室へ報告に赴いていたラドラスは、ありきたりなことをのんびりと答えながら、優雅に足を組む。
少年は流石に苛ついた目でラドラスを睨んだ。
「そんなことはわかってるよ!ただ、何で中央の方から花火なんて――」
その時、だった。
強制労働施設の内部から、鬨の声が奔流のように外へ向かってほとばしった。
少年は慌てて窓から首を突き出し、下を見下ろす。
そして、絶句した。
強制労働施設から駆け出してきたのは、治安部隊の若者たちによる軍勢だった。