黒髪に白い腰布、日に焼けた肌を惜しげもなく晒したその姿から、すぐにそれとわかる。さらに端の方には、似たような黒髪の長髪にカーキ色のマントをまとい、大きな麻袋を背中に担いだ女。金髪が輝き、青を基調とした立派な衣を纏った少年が、一行に混ざっていた。
「お、ジーナじゃん。それに王子も。あいつらも一緒に行くのか」
同様に横の窓から首を出したラドラスは、目をすがめて、魚の群れのように一直線に外を目指して走る一行を遠く眺める。少年はようやくハッとして、ラドラスに向かって喚いた。
「止めなきゃ!奴らの狙いはコルニア城の舞子ちゃんだ!」
「まあ、ジョナがいるからしばらくは保つと思いますが」
「呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ!囚人連中を率いて、早く止めに行ってきてよ!」
「それより、いいんですか?」
ラドラスはじっと少年を見つめた。無邪気でありながら、底知れない瞳で。少年は一瞬、その視線に心臓を掴まれたように、ぴくりとも動けなくなってしまう。
ラドラスは落ち着いた声で語りかけた。
「奴らの狙いは我々の計画の阻止でしょう。それには、コルニア城の舞子様を封じるだけでは足りないはず。何より、計画の要である“青の混沌”を抑えるのが定石では?」
少年はぱかりと口を開け、さらにワナワナと身体が震え出した。恐怖に歪んだ表情から、何を考えているかすぐにわかる。
(――大方、失態をさらし、覇王様から見放されることを畏れているんだろうな)
ラドラスはふ、と心の中で笑うと、恭しく子供の前で跪づいた。
「恐れながら、私は強制労働施設の全統治権を委任されております。軍勢の指揮はすべて私に一任して頂き、覇王様への報告のみ、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「……あ、覇王様、に……わかった……」
少年はすっかり憔悴し切った顔で、なんとかガクガクと顎を動かして頷いた。
ラドラスは呆然とする少年を放置し、さっさと部屋から出て行った。
歩きながら、頭の中で計画を練る。練るとはいっても、事態はラドラスの想定範囲内であり、かねてから考えていた計画に色をつけるだけで、充分事足りた。