レクスはまだ大広間の中にいた。
しかし誰とも話さず、考え事に更けっていた。
あの時……。
「レクス様、なぜあの方なのですか?あの方のどこが良いのですか?」
彼女は傷むような目をしたあと、手をそっとレクスの胸に当てた。
そして静かに身体を預ける。
この状態を人に見られたら、変な誤解を受けかねない。
だからと言って強引に押し返す訳にもいかない。
レクスは悩んだ後、そっと彼女を離した。
それが彼女の癇に障ったのか、彼女は腕をレクスの首に回した。
「あの方、いえ、リアお姉様よりはましなはずですですわ。ね?」
そう言い終わると彼女の顔が寄った。
そして唇に柔らかいものが当たる。
この感触には覚えがあった。
仕事で何度も感じたことがある。
愛してもないのにする口づけはなにも感じない。
それなのに。
彼女とリアは気付いていたのだろうか。
あの行為に気持ちなんて入ってなかったことに。
(案外こういうことには疎そう。)
そんなことを考えながらふと隣を見た。
「あ。渡すの忘れてた。」
レクスはその忘れ事をリズに託した。
そして、また考え事に更けるのだった。