「だーれだ」
真っ暗な視界の中、その声が頭の中に心地良く響いた。
「君だろ?」
「君ってなによ。まあ良いけど」
そう言って、彼女は僕の目を覆っていた手を離す。すると窓からの陽射しがとても眩しくて、彼女のほうへ顔を向けた。彼女は笑顔で僕を見ていて、それをとても愛おしく思う。
彼女は僕の前に来て、体で陽射しを遮った。そして車椅子に座る僕に、手を差し伸べた。
「さ、今日もリハビリ、リハビリ!」
「うん」
僕は昨年、交通事故に遭い、両足が動かなくなってしまった。それが原因で、彼女と同棲するようになったのだけれど、そのための代償は大きく、とても辛いものだった。就いたばかりの仕事は捗らず、思うようにはできない。けれど彼女がいるから、諦めずに、どんなに辛いことも乗り越えられた。
だから僕は、医者に再び歩くことは難しいけれど、努力次第ではどうにかなるかもしれないと言われたとき、正直に希望を抱くことができた。一緒に頑張ろうと言ってくれた彼女がいてくれたから。
僕は一歩を踏み出せる。彼女の手を取り、ゆっくりとだけれど、しっかりと確実に、一歩を踏みしめる。
それこそが、僕にとっての幸せなのだ。