「リア?」
「え……?」
「どうかした?」
レクスの呼びかけに我に帰る。
「何でもないよ?」
リアはそう答えてから俯いた。
知らず知らずのうちに顔をしかめて、物思いに耽っていたリアは、気付かなかった。
レクスがこちらを覗き込んでいることに。
「な…何?」
「もしかして、なんだけど…」
――見たの?
声ではなかったけど、口の動きで分かった。
そして愉悦の混じったこえで聞いてきた。
「見たの?」
「見たって…何を?」
「誰かを」
「誰かって、誰?」
さあ、と吐息だけで答えられる。
レクスの口元には不敵な笑みが宿っていた。
瞳には優しさなんて欠片もない。
その色の暗さにリアは思わず身が竦んだ。
それを認めてレクスはくすっと笑う。
そしてリアの頬を優しく撫でた。
「――っ……や……。」
悲鳴にならない悲鳴が出る。
それを聞いたレクスは楽しむかのような声で言った。
「何?まだ日も暮れきってないっていうのに誘ってんの?」
「違っ…!」
反論と同時に出た手はレクスに易々ととられる。
「っ!?」
彼の手の強さに顔をしかめる。
生理的に涙が出た。
レクスはそれを感情の読めない目で見るだけだった。