総合力では聖覧に遠く及ばないが、守備力だけを比べれば引けは取らないと、哲哉はこの試合で自信を得ていた。
その根拠は、外野の両翼を守る高野と後藤の守備の変化からきていた。
もともと守備の悪くない両名ではあったが、外野手の後逸が失点をまねくと知る彼らは、堅実な守備を心掛ける余り動きに果断さを欠いていた。
本来ならば内野陣と大差ない実力があるだけに、哲哉にはそれが残念でならなかった。
更にいえば、高校球界屈指の強力打線を擁する聖覧との試合では、それが勝敗を分ける要因になりうると考えいた。
だが、その見解がこの試合で一変した。
高野と後藤は打球にたいして果敢に挑み、一際目をひく活躍をして見せたのだ。
そのプレーに変化があらわれたのは、彼らの中間を守る小早川の存在が大きくかかわっていた。
実戦を経験し、フィールドを自由に駆け抜ける自信をえた小早川は、二人の先輩にある提案をしていた。
自分がバックアップにまわるから、もっと思い切ったプレーをしてみてはと。
この二人の先輩に補球技術で遠く及ばないと知る小早川は、それが最善の守備態勢であると直感的にとらえていたのだ。
小早川が野球を始めたのは、ほんの二ヶ月ほど前である。
その素人同然の後輩の意見を、二人は素直に受け入れた。
それは彼らの間に深い信頼関係があったからであり、小早川の発言が自分達にたいする思いやりからでた言葉であることを、二人は知っていたのだ。
高野と後藤に限らず、五人の三年生達には、野球部を同好会同然にしてしまった事にたいする負い目があった。
だが、八雲達はその事で三年生達を責めようとはせず、むしろ野球部を存続させていてくれた先達者として接してくれた。
それが三年生達には堪らなく嬉しくて、自分達に出来ることは形振り構わずやろうという姿勢にさせていた。
一方の八雲達も、そんな先輩達だからこそ敬愛し、信頼感を深めることができた。
あるいはこの相乗効果で生まれる強い絆こそが、橘華野球部の最大の武器なのかもしれない。
談笑しながら歩く桜並木も、終りに近づいていた。
そこで彼らは、回廊の出口にたたずむ少女の存在に気づく。