第五章
そして今夜。
月の無い夜に。
私と彼は、いつも通り、ブランコに座って話していた。いつも通り。
他愛も無い話をしていた。いつも通り。
優しい微笑みが隣にあった。いつも通り。
苦しい想いは私を苛むけど、この時間は、この空間は、やっぱり幸せだと思った。
…いつも通り。
それが幸せなんだと思った。
そして、私は自分の死期を悟った。
明日逝くだろう、という漠然とした直感が私の中に広がった。
そして彼を見た。
彼は微笑んだ。
「どしたの?アスカ。」
「私が死んだら、私の名前をつけた鳥も飼ってくれる?」
「? もちろんイイよ。何色がいいかな?」
「月色。」
「アハハ。難しい注文だなぁ。」
「月みたいに青白くて、でも少し優しい黄色を併せ持った鳥。」
「香港行って探してくるよ。」
「ありがと。」
「…そろそろ帰る?」
「…そうだね。」
それが、最期の会話になった。
キスすらしなかった。
私たちは、そういう空気が好きだった。
そういう空間で過ごすのが好きだった。
だから、イイんだ。
今、私は家族に見守られ、大切な花に囲まれて、ベッドの上で息絶えようとしています。
キョウは今頃、香港行きの飛行機の中かもしれないね。
願わくは、大切なあなたに、私の分まで、確実に明日が訪れますように。
END