07.
「ただいま」
「おかえり。……マコ。話があるんだけど」
「うん。何?」
お母さんの後に続いてリビングに入ると、お母さんは静かにイスに座って、正面に座った私を見据えていた。
そしてお母さんの口から出た言葉に、私は唖然とした。
「……転、校?」
ピアノができる環境がもっと整った場所へ行った方がいい。
今住んでいるところからは遠くなるから、引っ越しするとお母さんが言った。
「私……転校したくない」
転校したら、リュウとミクちゃんと会えなくなる。
それは絶対にいや。
「もう決めたの。これはマコのためなのよ。分かってちょうだい」
「でも……」
「お願いよ。マコ」
私のため?
何で転校しなきゃいけないの?
今のままじゃだめなの?
私はリュウとミクちゃんと一緒にいたいのに。
「荷物、まとめておいてちょうだいね」
お母さんはそう言うと、立ち上がってキッチンの方へ向かった。
転校。
そんなのいやだ。
急にリュウとミクちゃんの声が聞きたくなった。
さっきまで一緒にいたのに。
部屋に戻って、ミクちゃんに電話をしてみた。
でもなかなか電話に出なくて、留守番電話になった。
次にリュウにかけてみた。
でもさっきと同じで、留守番電話につながった。
2人とも、何してるの?
気がつくと涙がこぼれてきてて、私はそれを拭った。
それでも溢れてくる涙を、私は止めることはできなかった。