Part six # 藤堂郁 #
「いっくん――?」
わたしはその男の子の名前を聞き、凄く驚いていた。
「郁……」
ぽそり。
颯天くんが、呟く。
郁くんの事を颯天くんが知っているという事は、やっぱりこの男の子――“藤堂郁”は、颯天くんの双子のお兄さんなんだ……。
わたしはそう確信した。
休み時間。
わたしは郁くんに“約束”のことを聞こうと思ったんだけど……。
「藤堂くん、趣味は何なの?」
「ねぇ、携帯持ってるよね?良かったらアドレス教えて〜っ」
「うわあ……」
休み時間になった途端、郁くんの周りに人が押し寄せた(女子)。
郁くん、かっこいいからなあ……。
って、どうしよう。これだと全然話を聞く事が出来ない。
わたしは頭を悩ませた。
……仕方ない、やっぱり約束の事は颯天くんに聞こう。
そう思って颯天くんの方を見てみると、
「なあ池内、これやるよ」
「お、さんきゅ。……なんか微妙な味だな、これ」
「うっわ微妙とか言っちゃう?池内、お前さ――」
「じゃあさ、颯天。こっちはどうだ?」
「おま、人が話してる時に……!」
こっちはこっちで人だかりができていた(男子)。
「…はあ…」
「―――待ってよ、藤堂くんっ」
ひとりため息をついていると、そんな声が聞こえてきた。
何だろう?
そう思って声がした方向を見てみると……
「えっ?」
「………ちょっと来て」
郁くんがわたしの目の前まで来て、いきなり腕を掴んできた!
しかもそのまま、わたしをぐいぐいと教室の外へと引っ張っていく。
突然の出来事に、クラス全員がびっくりしていた。
颯天くんも驚いた目でこっちを見ている。
――みんな、見てないで助けてよっ!
目だけでそう訴えてみるが、伝わるわけがない。わたしはなされるがまま、郁くんに教室の外へ連れ出された。
そこで解放してくれるかと思ったが……
「ちょ、ちょっと!?」
廊下に出ても、郁くんは止まる気配がなかった。階段を上り、屋上へと歩いていく。――わたしの腕を掴んだまま。
「っ……」
手を振りほどこうとしても、やっぱり男女の差は大きい。わたしの抵抗は無駄だった。
そして、屋上――。
そこにきてやっと郁くんは、わたしの腕を解放してくれた。