眠れないんだよな
熱帯夜、僕は全国的に蔓延してる「節電」を無視できずに何とか扇風機で凌いでいた。
手元の目覚ましは深夜の1時を指している。
明日、バイト早番なんだけどなあ
苛立ちはますます眠気を遠ざけて、僕はため息と共に起き上がった。
かといって、テレビをつける気にもなれない。
そういや、アレあったな
昨日、バイト仲間に借りたCDがあったっけ。
サカナクションの新曲。
まだiPodには入れてないから、ウォークマンを引っ張り出す。
暗闇でごそごそしてるうちに目が慣れてきた。
鞄から袋を取り出して、CDを掴み…手を止めた。
あれ、これ…サカナクションじゃないじゃん。
ちぇっ、なんだよ、Mステで聴いて良いと思ってたから楽しみにしてたのに。
目を凝らしてみる。
黒いパッケージ、なんか古そうで汚れている。
何なんだこれ。
取り合えず、仕方ないからウォークマンに入れてイヤホンをつけた。
再生。
…。
静寂。
なんだよ、なんも入ってないのか?
目を閉じた。
まあいーや、このまま寝ても…
カッ…
ノイズ、小さな、雑音。
…ザザ…ン………ク…ル
?
ノイズに混ざって、何か…声か?
ザザザザザ…
ザザ…メテ…ザザ…ンデ…
なんだ、なんて言ってる?
目を閉じたまま、ぼんやりと…小さな囁きを追う鼓膜
ザザザザザ
ザザザザザ
「案外、頭って重いな」
唐突な声。
同時に
閉じていた瞼の裏に、
両目から血を流し、僕を見つめる女の映像がフラッシュのように瞬いた。
「うわあっ」
僕は飛び起き、イヤホンをむしりとった。
今のは…
今の声は…
次の日、僕はそのCDを返した。
「どうでした?」
僕が差し出したCDを彼は受け取って、微笑んだ。
それは僕が頼んでいた通りの真新しい新曲のCD。
でも僕は、昨日のことが夢や錯覚ではないことを知っている。
「なあ」
僕は彼に聞きたい事がある。
「お前の彼女…最近来ないね?」
彼はくるりと背を向けてCDをしまった。
それから、振り返り、笑った。
「彼女がいると、意外なことに気づけるんですよね」
それはそうなんだろう。
例えば
彼女の頭が、意外と重いなんてことに…彼は気づいたんだろう。
僕は考えていた。
彼の内側について
色々考えていたんだ。
完