幻想怪奇談 短編

にゃんぷち 2011-08-30投稿
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青白く照らし出された公衆電話。

今となっては使う人も殆どいない。

過去の異物のように、ひっそりと神社の横に立っている様子は、うら淋しい存在を一層引き立てている。

僕はそれを憐れに思っていたし、孤高の佇まいに魅力を感じてもいた。

だからこうして僕は、ボックスの扉を開ける。


緑色の、昔ながらの電話。
なかで羽蟻がぐるぐると円を描き、蛾が突然の侵入者に驚きはためく。


あれば無用の長物と言われ災害時には、どこを探しても見つからないと文句を言われるこの箱。


僕はそっと、機体を撫でた

似ている。


会社ではいつも損な役回り

居れば給料泥棒、居なければいざと言うときには役立たずと罵倒され。


だからこうして、この閉じられた空間で僕はホッとする。


こいつは僕の相棒だから。




いつものように、優しく電話帳を取り出す。



これも遺物であるテレホンカードを差し込み、彼に命を与える。




電話帳に掲載されている名前に片っ端から電話をかけ…間違えました、すみませんと繰り返す。


30件も過ぎた頃


「くそったれ」


と受話器を叩きつけられた


やあ、今夜も見つけたよ。
君の喜びが、受話器を通して伝わるよ。

何回繰り返しても、慣れることなどない、突き上げるようなこの快楽。


見つけた。

僕ら二人よりも余程、無用な存在を。


僕は満面の笑顔で電話番号をメモして、彼にさようならと声をかけた。


今日も獲物を提供してくれて、ありがとう。




電話番号だけで、どれほど簡単に居場所が特定出来るか…それに気づいた瞬間、本当の意味で僕と相棒は繋がったんだ。



歩きながら考えていた


今度はどんな風に…


僕という存在を、電話の向こう側に伝えてやろうか。


結局、使いなれたナイフに落ち着くことがわかってる


思わず鼻唄を歌っていた

相棒が僕を支えてくれる限り、僕は大丈夫


大丈夫だよ。


なにも心配いらないよ…


また、来るから









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