部屋に入って戒に声をかけてきた女性。
歳は20代半ばぐらいだろうか、戒たちとそう歳も変わらぬ若々しいが、それでいて落ち着いていて年上のお姉さんといった感じであった。
服装はスーッ姿であったが、腰まで伸びた美しいウェーブのかかった金髪、碧眼の整った顔立ち、柔らかい笑顔、それがこの女性の優しさを戒に印象付けた。
「身体のほうはもう大丈夫かしら?」
そう女性は戒に優しく声かけた。
「身体って…。あっ!」
戒は妹や両親のことばかり気にかけていたので自分の身体のことには全く気が回らなかった。
しかし、不思議なことにあれだけ痛かった怪我が今はなんともなかった。
戒は驚いたようで怪我の跡を確認するが、かすり傷一つ残ってはいなかった。
「痛くないっていうか怪我の跡すらない!」
「ああ、そこはうちの治療スタッフが優秀だったからよ。しかし、戒くん危ないところだったのよ。」
そう言って女性の口元が一瞬ニヤリとしたと思うと、女性は葵の隣に椅子を置き隣に腰掛けた。
「危ないところ?」
「ええ。葵が急いで私たちに助けを求めてくれたから助かったけど、普通なら身体のどこかに後遺症残すレベルの傷だったわ。」
「葵が助けを?」
「ええ、そう。しかし、あんなに取り乱してるこの子を見たのは初めてよ。」
ふふふ、と言った嬉しそうな顔で女性は葵のほうをみた。
それに対し、葵は相変わらず無表情だがものすごい殺気をはらんだ目で女性を見ていた。
葵がこちらの視線に気付いたのか葵と目があった。
「あの、なんだ…その……ありがとう。」
気まずさもまだあったが、色々助けてくれた葵に一言お礼がいいたかった。
葵は少し困ったような表情をし、視線を下にそらした。
戒は葵の態度が少し気になったが、今はそれどころではない。
この女性に聞かなければならないことがたくさんある。
「それで…あの、色々聞きたいことがあるんですが。」
「ええ、どうぞ。話してみて。」
「妹の明は、父さんや母さんは無事なんですか?ここはどこですか、お姉さんはだれなんですか?」
こういうもの普通順をおって聞いていくのが礼儀であるが、戒は少し焦ってるようで今までの疑問をそのまま全てぶつけてしまった。
「あらあら。そんなにいっぺんには答えられないわよ。だから一つずつ答えてあぐるわ。」
これらの質問が来ることは予測していたのか、女性は別段驚いた様子もなく、落ち着いていた。
「まず、戒くんの妹と両親のことだけど、3人とも無事よ。傷一つないわ。」
「そうか、よかった。」
それを聞いて戒は安心した。ようやく戒は一息つくことができた。
「そして次はここはどこかという質問ね。あまり詳しく言えないけど、ここは私たちの基地みたいなものかな。」
基地?私たち?
戒にはどういうことかさっぱりわからない。
「そうねえ。たぶんそう言われてもピンとこないと思うわ。あんまり詳しくは説明できないし。そうねぇ、私と葵はある活動しているグループでここはその基地ってとこかな?」
「ある活動?」
「そう。私たちは『魔法』を管理してる集団。」