「黙ってなさい!あなたは今から、覇王様の裁きを受けるのよ」
そして美香は耕太を引きずるようにして、可愛らしいステンドグラスのはまった真っ白な螺旋階段を登り始めた。
耕太はすぐに美香の意図を察した。変身が解除されてしまったのを逆手に取り、捕まえた侵入者を連行するという体で、先へ進むつもりなのだろう。
耕太はそれらしく見えるよう抵抗するそぶりを見せながら、それでも自分の足で階段を登った。
二階にはすぐに着いたが、そこでも騒ぎが伝染しており、大勢の人々がバタバタと走り回っている。
「……スルーで行くわよ」
「……おう」
二人は互いに聞こえる程度の声で囁き合うと、誰かに見咎められない内に、再び上を目指して階段を登り出した。螺旋階段は三階、四階へと続き、五階目からは普通の階段に切り替わる。途中、多くの城兵や臣下たちとすれ違い、たどたどしいながらも声を掛けられたりしたが、どういうわけか六階に到着した途端、嘘のように城内が静まり返った。まるで切り離された異空間に放り出されたような、唐突な空気の変わり様だった。
「誰もいねぇな……」
耕太はぼそりと呟いた。一見する限り、そこには確かに誰もいなかった。しかし、明らかに今までの階とは部屋の様子が違う。絨毯の色も深い濃紺に変わり、壁紙にリボンと花の模様をあしらったり、絵画がかかっていたりと、内装が豪華になっている。それが逆に怪しい。ここからが本番だと、露骨に言われているようにしか思えない。
急に襲ってきた緊張感に、肌がチリチリと痺れるような錯覚を覚える。美香はこくりと唾を呑んだ。
しかしこの事実は、この階から上にミルバがいるかもしれないことを大いに示唆している。――例え罠だとしても、進むしかない。
「もう、捕虜のフリはしなくてもいいよな?」
耕太がばつの悪そうな声を出す。確かに、ここからが戦いの本番だとしたら、こんな見え透いた演技は通用しないだろう。
その言葉をきっかけに、ピタリと寄り添っていた二人はようやく離れた。
耕太は決まり悪そうな顔をしているが、変身が解けてしまったことに対し、耕太を責めている暇はない。美香は緊張を隠すように淡々と言った。
「ひとまず、この階でミルバを探さなきゃね」
「けど、こんだけ部屋が多いと大変じゃねえ?それにこれだけ静かだと、たぶん誰も部屋にいないぜ」