「何で家に来たの?」
前とほとんど同じ体勢でレクスに聞く。
「ああ、仕事の話しに来たんだけど。」
「仕事?」
リアが振り返ろうとするとそれをレクスが止めた。
「ようやく準備が整ったから、その報告にね。」
「ふーん。」
レクスには秘密や嘘が多い。
仕事の他に来ている理由がある。
それをあえて隠し通す。
(私には言えないこと。経済的なことか…、もしくは……)
――婚姻系か。
自然と笑みが出た。
男を誘うような、艶のある笑み。
「ねえ、仕事って言ったけど本当?」
身体をゆっくりと預け、絡めた手を滑らす。
少し露になった肌にもう片方の手をやり、目線を手の方にやった。
「教えて欲しいな、あなたのこと。」
目線を滑らすようにゆっくりと上げた。
「あなたは主従関係を全うするの?私はいいけどあなたはいいの?」
「何?誘ってんの?」
声はいつもより抑えられている。
その代わりに耳元で囁くから、吐息がくすぐったい。
「駄目?誘っちゃ悪い?一応でもお互い関係持っちゃってるんだから、ちょっとくらい楽しみましょ?」
初めてだった。
まだ若い男を誘うのは。
本当に襲われたらどうしようかと不安になる。
今までの仕事のように中年相手なら逃げられる。
魔法だって使えばいい。
でも今回はそうはいかない。
リアは不安を閉じ込め、またあの笑みを作った。
それでもレクスは何もして来なかったので、リアは少し警戒を解いた。
油断した。
一瞬だった。
リアが気付いたときには完全に押し倒され、身動きがとれなくなっていた。
突然のことに軽く目を見開く。
「ねえ、レク…」
唇で言葉は塞がれた。
それが離れたかと思うと首筋に当たる。
不安が的中したのかとリアは怖くなった。
せめて手の自由だけても取り戻そうともがく。
「ねえ、ちょっと…!止めっ!」
だんだん下に下がって鎖骨の辺りまできたのを感じた。
「やっ…やだ!止めて!お願いだから!ねえっ!」
目に涙が溜まる。
「誘ったのはそっちだよ?」
いつもの声色ではなかった。
表情のない声。
「やあっ……!ごめん…ごめんなさい!!だから許して!!お願いだからっ!止めて!!」
そう叫ぶように頼むと、手が自由になった。
覆い被さるようにしてあった身体が離れていく。
ドアの閉まる音がやけに遠くに聞こえた。