街から少し外れたところに鬱蒼と生い茂る森がある。昼間も薄暗く滅多に人は寄り付かない場所。
「この森、入ったことないわ」
「・・・」
その森を歩く二人の女性。観城さきとポニーテールの少女、ナユリ。しかし、先行するさきの背をナユリは何故かジトっとした目で追いかける。
「どうしてこうなった・・・」
ナユリは何度目かになるため息をつく。
さきの肩から下げられたショルダーバックにはかなに頼まれた忘れ物が入っている。本来ならそれ『だけ』持って帰ればよいのだが、
(やっちゃったなー、私)
さきに見つかってしまったのが運の尽きだった。彼女は強引にナユリに付いてきている。
(しかも、『普通の人』に追いつかれるとかありえない)
一度、ナユリは走って彼女を巻こうとした。だが、森の入り口辺りで追いつかれショルダーバックを奪われてしまったのだ。
(・・・でもまあいいか。どうせあっちへの『点』は見つからないだろうし)
「ナユリちゃん」
「! はい、なんです!?」
「なんか変な場所に出たんだけど?」
「変な場所って・・・うそ!?」
ナユリはさきが指差す方向を見て驚く。
そこには古びた廃駅らしき建物があった。線路もあるが草に覆われ、何年も使われていないことがわかる。建物の中には小さい待合室とホーム。もちろん人はいない。
「へぇ。こんなとこに駅なんてあったのね」
「あ! 待って!」
ナユリは自分の横を抜けて駅に向かって一歩踏み出したさきを制止する。
「あぁー、出ちゃった・・・」
「出た?」
「・・・もうしょうがないです。辺りの景色、見てみて下さい」
「え? あれ!?」
今度はさきが驚いた。
今までの森がなくなり、辺り一面緑の草原が広がっている。あるのは目の前にある廃駅だけだった。
「うそん」
「ウソじゃないですよ、もう。すごく不本意ですけどようこそ『私たちの世界』へ」
「こんな簡単にこれるの?」
「ムリです。っていうか冷静ですね、さきさん」
「んん、驚いてる。驚いてるけど・・・なんだろね? なんかこう、落ち着くというか懐かしいというか。わかんないや」
さきは困った風に笑った。