レクスは刺々しい雰囲気を纏っていた。
あの娘が見事に、その辺の男を落とす手を自分にも使ってきたことが許せなかったから。
(あの娘にとっては俺も同じか。)
そんなことを思っているうちにある部屋の前に着いた。
三回ドアを叩いたあと、一拍おいてもう一回叩いた。
合図だ。
ドアはすぐに開いた。
レクスはニコッと微笑むと部屋に入り口を開いた。
「準備は整いました。では約束通り頂きましょうか。」
リアは寝転んだままぼーっとしていた。
ときどき涙ぐんでは乱暴に拭うことの繰り返し。
怖かった。
本気で抱かれるかと思った。
(でも、それだけじゃなくて……。)
レクスの纏っていた空気が怖かった。
妙にピリピリしていて、怒っているような。
また涙が浮かんできた。
あの時の恐怖を払うように小さく呟く。
「…ごめんなさい…ごめんなさい……。」
――怒らないで……。許して……。
そう願った。
祈った。
髪を優しく撫でられている。
そんな感覚にリアは目を覚ました。
いつの間に眠ってしまったのだろう。
「君が悪い。」
「…ごめんなさい……。」
「別にいいよ、もう。」
まだ怒っているのかと怖くなる。
でも、いつもと同じ笑顔に声色。
それに少なからず安堵する。
「仕事のことが知りたかっただけなんだよね?」
優しく問われて素直に頷く。
「ホントはもっと後に言いたかったんだけど。」
「何を?」
「リアかエリーを貰いたいと思って。」
婚約話。
その話に自分が入っているなんて、リアは思っていなかった。
「エリーの方で決まりそうだけど。…正直ね。」
レクスは語尾を濁して言った。
(エリーとこの人が結婚する、かもしれない……?)
リアは妙な胸騒ぎに襲われたのだった。