「とにかく、ここまで来ちゃったから、かなっちの所まで案内します」
「お、ありがとう」
「本当はイヤです。察して」
「えー」
こちらです、とナユリに案内された場所には何かゴツゴツとした鉄の塊みたいなものが置いてあった。
「何これ? ゴミ?」
「失礼な。乗り物ですよ。そちらの世界にあるバイクみたいなものです」
言いながらナユリは鉄の塊もといバイクに跨がり、モニターのようなものに話し掛ける。
「もしもし、誰かいる?」
『はいはーい、私がいます!』
するとそのモニターから人の声が聞こえてきた。ついでに何か頭らしきものも写っている。
「ミズ、見切れてるよ?」
『モニターが高い!』
「まあいいや。今からそっちに帰るから」
『あいあーい』
「かなっちは何してる?」
『寝てる、爆睡! 昨日もナイスステージでした!』
「あ、そう。じゃあ後で」
画面が暗くなると、モニターからの声も聞こえなくなった。
ナユリは隣に立つさきにポンポンと座席の後ろを叩いて座るように促す。
「今のは誰?」
「仲間みたいなもんですよ。はいこれ」
さきはナユリからヘルメットを受け取る。
「なんかヘルメットは普通ね」
「ああ、それはそちらの世界で買ったものです。かなっちが『バイク乗るなら絶対ヘルメット!!』って怒るから」
「まあ、ノーヘルは危ないからね」
ヘルメットをかぶったさきはナユリの腰に腕を回した。
「どのくらいで着くの?」
「二時間もあれば」
ナユリはモニターに触れながら答える。その度にポンポンとボタン効果音のような音がする。
「よし、大丈夫。じゃあ行きますね」
バイクが小刻みに揺れ始める。
だが、
「って、なんか音がすごいんですけど!」
揺れ始めたバイクから聞こえる爆音にさきは焦り始める。
「壊れてるんじゃないの!!」
「標準音です!!」
「うそん!!」
「それじゃあ行きます!!」
「あ、安全うんてっ!?」
さきの必死の言葉はバイクの急発進でかき消されてしまった。