「勘違いなんだよ…」
「ん?」
「何で理解出来ないのかなあ…」
「え?」
「テロ無くすのに力じゃだめなのになあ…」
「…」
彼の横顔には、苦悩と苦痛と怒りと…数え切れない悲しみが、無表情な皮膚に影を刻んだ。
「力こそ正義っていう勘違いに気付けないんだな。抑圧は憎しみと反発しか生まないのになあ…」
「う…ん」
「力無き正義は無能也は正しい。でもな…」
久しぶりに会えた彼はいつも通り優しい彼だった。
でも、会う度に瞳に沈殿していく悲しみは増えている。
ねえ、今度はいつまでいられるの?
その問いかけが喉の検問所で制止される。
ピピピ!ピピピ!
彼の携帯が突然、せっかくの二人だけの時間を断ち切る。
「ごめん…行かないと…」
「うん、気をつけてね」
優しい過ぎる包容と甘すぎるキスを残して彼は出て行く。
向かうのはカオスという言葉すら軽すぎるエリア。
アフガニスタン
アメリカ海軍特殊戦部隊シールデベロップメントグループレッドティーム オペレーター としての任務の為に
テロリスト掃討の為に
彼は出て行く
平和過ぎる日本人には想像すらつかない地獄へと
善と悪だけでは説明出来ない闘いへと
彼は向かう
ほんのわずかな可能性を信じて
争いのない世界を実現するために