「ヒロ…。練習は?」
「アキちゃん…やっぱり…。」
ヒロはカズヒロの質問を無視して、アキの心配をした。
カズヒロも、答えてくれないヒロに、無駄な苛立ちは覚えなかった。
「先生、病院は連れていったほうがいいんですか?」
カズヒロが無意識に呟く。
「そう…ね…。でも、気を失っているだけだから、この痣を治療すれば、元気になると思う。」
「そうっすか…。」
「私、ずっと看てるから大丈夫。」
先生は笑ってくれた。
1時間、2時間とすぎた。先生は、袋に氷水を入れ、痣を冷やしていく。
「直接置くと冷たすぎるから、タオルを1枚敷いてから冷やすようにして。」
「分かりました。」
カズヒロ、ヒロも手伝う。
すると、放送で「先生方は職員会議がありますので、至急職員室にお集まり下さい。」と連絡が入った。
「…ごめん。看病続けててもらえる?」
「分かりました。」
先生は申し訳なさそうに出ていった。
すぐ、後を追うようにヒロも、
「実は俺も…バイトなんだ。」
「あぁ、そうか。」
「どうしても休めなくて…。ごめん。」
カズヒロは首を横に振った。
「じゃあ…アキちゃんによろしく言っといて。」
「了解。」
ヒロも出ていった。
日も沈みかけてきた夕方、皆練習が終わり下校しているようだ。
すると。アキが目を覚ました。
「…アキ!気づいたか…。」
『カズヒロ…』
アキは、痛々しい手を動かしながら伝えてきた。
『ここは、どこ?』
「保健室…。今はゆっくり休んで…。」
それしか言ってやれない自分を殴りたくなった。
「ヒロもアキのお見舞いに来たんだ。今はバイトでいないけど。」
『そう…。』
「アキ、ごめん。」
『…』
カズヒロを見つめる目が、涙ぐんでいた。
カズヒロが来たのが嬉しくて泣いているのか、サユにやられたことが辛すぎて泣いているのか、分からなかったけど。
きっと、何かが吹っ切れたのだと、思った。
「俺の…『助けるのはこれが最後』…。この言葉が、アキを苦しめさせてしまったこと、本当に、ごめん。」
アキは、首を横に振った。
『私の方こそ…ごめん。』
アキが泣いている理由を、カズヒロは模索し続けた。