昔は妹のように可愛がって二人でよく遊んだ。
リムルも姉のように慕ってくれていた。
でも、今はそういうわけにはいかない。
淡い赤色の髪、翡翠の瞳。
その美しい容姿もさることながら、リムルは勉学、運動、戦闘能力におけるまで他を圧倒する成績を修めている。
強いて欠点をあげるならその悪魔らしからね優しい性格くらい。
客観的にみたら彼女のほうが当主にふさわしいのかもしれない。
でも…。
「イリス姉様のお気持ちもわかります。本家当主の座をそんなに簡単には譲れないと思います。ですが、姉様の御父上である当主さまが失踪されてから5年。もう、姉様の成長を待つとか悠長なことは言ってられない状況なんです。」
リムルはいつものふんわりとした雰囲気ではなく、強くまっすぐな瞳で私を見据え、ピリピリとした空気を放っている。
ただ優しいだけじゃない。この子も言うときは言うのだ。
「くっ。」
何も言い返せない。
言い返すだけの実力も実績も私にはないのだから。
「ですが…。このまま私が当主に決まってもイリス姉様には納得していただけないでしょう。そこで私から提案があります。」
提案?
どのような提案かは私には全く予想がつかない。
「イリス姉様が実際に当主に相応しくないか、それを見るために姉様には実際の当主の務めを果たしてもらいます。つまり実際に人間との契約を完了させていただきたいのです。」
リムルの発言に親族のみんなが騒つき始めた。
それもそのはずである。
実際に当主になったとして人間との契約をすぐに応じるわけではない。
契約用の訓練を十分に積んでから受けるのが普通である。
「それはあんまりですぞ。イリスお嬢様の御父上であるメサイア様も契約の召喚に行ったまま帰って来られないのです。イリスお嬢様にはまだ危険すぎます。」
「黙りなさい、じいや。あなたが主人を心配する気持ちはわかるわ。でも、その物言いではあなたも姉様には当主は無理と言っているも同然。受けるか、受けないかを決めるのは姉様よ。」
うろたえ、必死に訴えかけるじいやに厳しくリムルは言い放った。
「契約か…。」
確かに危険である。
召喚する人間によっては危険な契約を望んできたりする。
契約をするにはあまりには経験と契約に関する知識足りない。
だが、それでも私には最初からどうするかなど決まっている。
「その提案のるわ。」
ざわざわと再び回りがざわつき始める。
私がびびって受けないとでも思ったのだろうか。
とんだ見当違いだ。
源三のじじいは私のほうを見てニヤニヤしていた。
どうせ出きっこないと馬鹿にしている。
「私が提案していて何ですが姉様、今すぐに返事を頂かなくても…」
「いや、これはもう決定で構わないわ。」
「そうですか…。」
リムルは悲しそうな顔をしてそう答えた。
自分から提案しといたくせに…
あれから一週間ぐらいたったときだった。
地下の契約の間に魔方陣が現れた。
いよいよ人間の召喚に応え、当主の座を手に入れるときである。
私は召喚の魔方陣の中に入っていった。