「おはよ。」
「おはよ、リア。」
何気ない挨拶で始まったある朝のことだった。
事件が起きたのは。
「レクス様!」
凛とした声が響く。
その声の主は、真っ直ぐにレクスに走って行って……。
一瞬リアを見た。
冷たい目で。
「エリー様、おはようございます。」
レクスはいつかの嘘の笑顔でエリーに挨拶をした。
優しく、この世の闇の世界など知らないかのような。
直感した。
(ああ、この人は違うんだ、私とは。)
会話は耳に入らない。
楽しげだ。
世界が遠くに感じる。
「ごめんなさい、私、邪魔ね。」
たったそれだけを言ってリアは踵を返した。
「何よ。あの人。レクス様に対して失礼ね。」
エリーの口元に笑みが浮かべられていたのを、レクスは知らなかった。
『ルカ!』
『いやっ!来ないで!!』
あの夢。
『来ないで、来ないで!来ないで!!』
彼女の声はクレッシェンドしながらも震えていた。
それは怒りからくるものなのか恐怖なのか。
『お願い、来ないで……来ないで!!』
今までの夢とは少し違う
激しい、荒々しい感情。
(呑まれそう……!)
リアは少し荒い息のまま辺りを見渡した。
「…え……。」
――違う。
「え?何で…私…ここに……。」
ここはリアにとっての
――地獄……。