ハシモト君の容姿はかおりがノートに描いていたものそのままだった。コートのような真っ黒で妙なパーカを着た、たれ目でひょろひょろした少年だった。背丈もそんなに大きいとは言えない。子供だった。
「もしもーし」なんて声をかけてくる。が、かおりは依然固まったままである。
「…私おかしいみたい」
かおりは気の抜けた顔でそうつぶやくと、ハシモト君を無視して歩き出した。無視されたハシモト君はきょとんとしている。
(疲れてるのかしら…。きっと幻に決まってる)
溜息を吐いたその時だった。
「幻じゃァないぜ、本物さ」
急にハシモト君の声が大きく聞こえた。かおりのすぐ真正面にハシモト君が立ちはだかっていた。というより、顔が目の前にあった。雰囲気も声もさっきと違って大人びていたので、かおりは気味が悪くなった。それにしても近すぎ。
「消えろッ!」
かおりは鞄を振り回してハシモトを避けようとした。振り回した鞄は彼の顔に思いっきりぶち当たり、情けない声をあげて倒れた。それには目もくれずにかおりは歩道橋を駆け降りていった。
「ギャフン!」
少年は気絶した。
築4年のマンションの5階に彼女の自宅はあった。
「あーあ、しゃーない諦めよっと…」
ドアを開けた。
彼女は背中に妙な色の何かがへばりついていたのに気づかなかった。