ルシフェル家当主になるために、みんなに認めてもらうために私は契約をこなさなければならない。
私が召喚された場所は暗くて狭い地下の独房のような場所だった。
そこで私を召喚した青年が言い放った最初の一言は…
｢なんだ？貴様は？｣
とんだご挨拶である。
なんだ？貴様は？じゃないわよ。
召喚したのはあんたでしょうが。
あんたこそなんなのよ。
私はこのふざけた青年の胸ぐらを掴んでそう叫びたかった。
叫びたかったが、そうするわけにはいかない。
初めての契約、こんなところで召喚士にキレるわけにもいかない。
私は込み上げる怒りを抑え、大きく深呼吸をして答えた。
｢私はあなたに召喚された悪魔です。あなたとの契約のために参りました。｣
ここは上級悪魔らしく下手に偉ぶったりしない丁寧な挨拶をした。
青年はほうと表情を変え、納得したような顔で尋ねてきた。
｢では、貴様がかの大悪魔ルシファーか？｣
｢そうです。私がかの大悪魔ルシフェルです。｣
全くやっとわかったか、人間め。
わかったら今までの無礼を詫びてとっとと契約してよね。
私はこの人間が恐れおののくだろうと思いにやりとした表情で答えた。
が、そんなことはなく。
私がルシフェル(ほんとは仮)だと聞くて人間はあからさまに大きなため息をつき、非常なつまらなさそうな顔をした。
｢なんだ、つまらん。神に逆らった大悪魔というからどんな姿をしてるかと思えば、こんな小娘が出てくるとは。現実とはこんなものか。｣
ものすごく失礼な言葉を吐き捨て人間はこの場を後にしようと背を向ける。
ほんとにこの人間は頭をかちわってやろうか。
｢待ってください。私との契約がまだです。｣
｢ああ、用事ならは済んだから帰っていいぞ。｣
｢用事は…すんだ？｣
私は頭が真っ白になりそうだった。
｢ああ、ルシファーを見るためだけに召喚したからな。もう貴様には用はないから帰っていいぞ。｣
用はない…。
それって契約は無しってこと。
そんなのって…。
｢ふざけないでよ！｣
私は人間の胸ぐらを掴み、叫んでいた。
もう我慢の限界だった。
｢こっちが下手に出てみれば、小娘だのなんだのと馬鹿にして。挙げ句の果てに見るためだけに呼んだですって？私は貴方との契約のために来てるっていうのに…｣
しかし、青年は表情一つ変えない。
それどころか胸元から何やらお札のようなものを取出し、私の頭に張りつけた。
｢あんぎゃ。｣
全身にもの凄い電流が流れた。
私はプスプスという煙をあげながら、その場に倒れた。
人間は倒れた私を見て冷たく言い放った。
｢悪いが、天才である俺はお前などと結びたい契約などない。契約なら次に召喚されたときにでもするんだな。まあ、今回は運が悪かったと思え。｣
そう言って人間は私に背を向ける。
体が痺れて思うように動かない。
でも、私は必死に人間の足を掴んだ。
｢次なんて…ない。｣
｢貴様はいい加減に…｣
人間は振り返り私を引き離さそうとしたが私の顔を見て止まった。
｢私に…次なんて…ない。次なんて用意されてない！｣
私は泣いていた。
必死に人間にすがりついていた。
こいつは鬼のような人間だ。そんなことをしても意味ないかもしれない。
それでも私は必死に訴えた。
｢なんでも…なんでもいいから契約を結んでよ。お願い…。｣
涙で前が見えない。
青年がどんな顔をしているかもわからない。
なにもない時間が数秒間流れた。
青年は私の頭に手を伸ばし、札を剥がし別の札をつけた。
ああ、私を引き剥がすためにつけたんだな。
そう思った。
体の周りから光の粒が溢れてきてそれが私の中に入ってくる。
不思議と全身から痛みは抜けた。それどころか体から元気が湧いてきた。
人間はハンカチを取出し、私の目の前に置いた。
｢それで顔を拭いてとっとと立て。契約を結んでやる。｣
｢ほんとうに！｣
この鬼にもそれなりの優しさがあるのかもしれない。
｢ああ。なんでもいいと言ったしな。｣
青年はにやりと悪い笑みを浮かべていた。
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