意外といい奴かも知れない。
そう思い、私は青年の背中を見つめていた。
青年は再びこちらを向いて不快そうな顔をする。
「早く顔を拭けと言ったはずだが何をしている。貴様の汚らしい涙と鼻水が地面につくだろうが!」
前言撤回。
やっぱりこいつはただの糞野郎だ。
私はそう確信し、顔を拭いて立ち上がる。
青年はそれを確認し、ついてこいと手招きをする。
私は青年についついき、地下の階段を上っていった。
階段を上り終えると大きな広間にでた。
広間には豪華なシャンデリア、壺、美しい絵画などの装飾品が飾られている。
どうやらこいつは金持ちの家の子供らしい。
私が部屋を見回しているなか青年が話しかけてきた。
「おい、本当に契約は何でもいいんだな。」
忘れていた。
こいつは先ほどからの行動や言動から決して優しくていい人間でないことだけはわかる。
そんな人間に後先考えずなんでもいいと言ってしまった。
とんでもない無理難題を押しつけてくるかも知れない。
危険なこととかも。
いや、ひょっとしたら…
「え、えっちなことだけは嫌だからね。」
私の返答を聞くと青年はにこりと笑い、胸元から札を取出し私の頭に付ける。
「ぎゃ!!」
私は再びプスプスと煙をあげた。
「俺が貴様などに欲情するわけないだろうが。次にくだらんことをほざけば消すぞ。」
少なくともこいつは私を女の子として見ていないことはわかった。
青年はさらに屋敷の中へと連れていく。
やはりお金持ちの家らしく、もの凄く広かった。
だが、不思議なことに誰かとすれ違うことはなかった。
青年に連れられてたどり着いたのはキッチンであった。
まさか…
「あなたもしかして私を食べるつもり?!」
再び私の頭に札が貼られた。
………
「貴様には今日の夕飯を作ってもらおう。最近飯を作るのが面倒くさくてな。」
「ちょっといくら何でもそれは…。」
「なんでもいいと言ったのは貴様だろう。」
「でも!」
いくら何でも馬鹿にし過ぎである。
わざわざ悪魔を召喚してご飯を作らせるなんて。
そんな契約で分家のやつらが納得するわけがない。
それに私にだってプライドはあるし…。
「安心しろ。悪魔の契約には守秘義務がある。どんな契約があったか契約を交わした本人たちしか知らんし、契約内容を他に漏らすことは契約違反にもなる。」
「そういえばそうね…。」
「だからあとは貴様のくだらんプライドだけだ。そんな何の役にも立たないものは捨ててとっと飯を作れ、そして帰れ。」
青年は面倒くさそうにそう言った。
確かに私はどんな契約だろうとそれを完遂し、みんなを認めさせないといけない。
この際くだらない意地など張っている場合ではない。
「わかった。その契約受けるわ。」