少女は空に向かって祈り続けた。
父に天罰が下るように。耐えられぬほどの苦しみに苛まれるように。
あの日以来、ずっと………。
「神様、どうかあの憎き父に天罰を」
その日は嵐が街を覆い、激しい雨と強風が部屋の窓に叩きつけていた。
そんなことにもお構いなしに、少女は窓を開けて祈り続けた。
彼女の父親は二年前、その妻、つまり少女の母親を殺した。少なくとも彼女はそう考えている。殺したも同然なのだ。
その日、彼女の父親と母親が喧嘩をした。父親の浮気の発覚が原因であった。彼は最後まで自分の非を認めようとせず、やがて母親は怒りに満ちた表情で家から出て行った。
その直後、彼女が交通事故で亡くなったという知らせが入った。むしゃくしゃした様子だった彼女は、横断歩道を渡る途中、信号を無視して迫ってくるトラックに気づかず、そのまま接触してしまったのだという。
少女は愛する母親をなくしたのだ。父親のせいで。
彼は後悔しているように見えた。しかし、誰がいくら悔やもうと、母親は生き返らないのだ。
少女は父親を憎んだ。
彼の勤める会社が倒産すれば、深い絶望感が彼を襲うに違いない、と少女は思った。とにかく、憎むべき父親を奈落の底に突き落とすような天罰を、彼女は望んでいた。母親もそれを望んでいることだろう。
いっそ、彼自身が死んでしまってもいいとさえ思うのだった。
「神様、どうかあの憎き父に天罰を」
……………!!
突然、暗黒の雨空に稲光が走った。
まるで、神様が少女の祈りに応じてくれたかのように……。
少女は死んだ。
落雷による感電死であった。
即死だった。
ものすごい音に驚いて、父親が部屋のドアを蹴り破って入ったときには、すでに少女は床に横たわって死んでいた。
窓は開け放たれていて、雨風が部屋の中に吹き込んでいた。
彼は少女の横に寄り添い、「代わってやれるものなら…」と呟いて、悲しみの涙を流した。同時に、深い絶望感が彼を襲った。胸が苦しむのを、彼はどうしようもなかった。
彼の涙は、強く吹きつける雨にかき消されていった。
しかし、彼の絶望感は、その雨風によって流れ去ってくれるようなものでは、決してなかった。