レクスの手を握る手に力がこもる。
「さあ、帰っておいで、リア。」
伸ばされた手に首を横に振る。
「いいのか?また、ああなるぞ。」
リアの肩が一つ、大きく波打った。
「さあ。」
更に伸ばされた手に一歩後退った。
「行きたくない……!」
リアはレクスの腕にしがみつくように手を強く握った。
リアが小さく震えているのが分かった。
「行かなくていい。」
「そういう訳にはいきませんな。次のお客様が待っている。」
「リアはあんたらの物じゃない!」
リアの頬を一滴の涙が伝う。
少し驚いた顔でレクスを見つめた。
「では、それを買い取ると?」
「だからリアはあんたらの物じゃ…」
「物ですよ、私たちの。」
扱いが酷い。
人を人と思わない発言に思わず怒りが込み上げる。
それを抑え、一つ息を吐くと睨み上げながら訊いた。
「いくら?」
「三億くらいは頂くことになりそうですね。それでもまだ安いかと。」
「兆くらいならいける。お宅の好きなように。一括払いで。」
「分かりました。ではこちらで検討しておきましょう。」
そう言ってあの人は去っていった。
レクスはまた息を吐くとリアを見た。
まともに目が合う。
「ごめんなさい…兆くらいってそっちに凄い不利益なことを……!」
レクスから目を逸らして泣くリアを無理矢理こちらに向かせた。
「不利益になるのは、君がどこかに消えてしまうとき。だからそうならないようにしたい。」
真摯な目で見つめられると動けなくなる。
まるで出会ったあの日のように。
「あの世界に帰ったら結婚してほしい。正式に申し込みたいと思う。」
驚きに目を見開く。
しばらくそうしてから俯いた。
そしていきなりレクスに抱きつく。
「私、わがままだから!迷惑いっぱいかけるし、いっぱい怒らすと思う。それでもいい?後悔しない?」
「後悔ね。させれるもんならさせてみなよ?」
リアは笑みを浮かべると宣戦布告した。
「知らないんだから!」
初めて知った。
本当の幸せを。