「じゃあ、今回の作戦に関して僕から説明する。まず、閃光弾は使えない。近隣の住民達には気づかれてはならないからだ。カーボーイ的な突入はしない。完全なサイレントオペレーションだ。それと、みんなもわかっているとおり、リーダー格…マスターは生け捕りとする。あとの二人は…」
「制圧…だな」
バフが微かに眉間にシワを寄せながら言った。
制圧…すなわち、射殺だ。
皆、胃が重いのだ。
巷では、特殊部隊員に関する勘違いや誤解が溢れている。
映画の見過ぎや小説の読み過ぎなのか…
特殊部隊なんて、殺人凶のならず者だろう?
それは甚だしい誤解だ。
特殊部隊に属する人間は非常に厳しい選抜をくぐり抜けてきた男達だ。
肉体的資質は元より、思想面精神面の厳しいセキュリティークリアランスをパスした人間達である。 また、知能レベルは非常に高く、特殊部隊員達のIQはとても高い。
実例としてこんな話がある。
米陸軍特殊部隊デルタフォースのある選抜の時だった。
候補生の中の一人は極めて優秀な成績を叩き出していた。
肉体的にも知能レベルも精神的タフネスも教官が感嘆のため息を漏らす程だった。
間違いなく合格のはずだった…が、最終的に精神科医の一言で彼は落とされた。
その精神科医の一言は
「彼はあまりに好戦的過ぎる。彼を採用すれば、将来重大な事件を引き起こす可能性がある」
つまり、戦闘フリークでは特殊部隊員にはなれないのだ。
特殊部隊員の任務は、ただ単に弾をバラまくような仕事ではない。
的確な判断能力や忍耐力、私的感情や思想に左右されない強い精神力が求められるのだ。
第一次湾岸戦争での壮絶な体験を記し、ベストセラーとなった元イギリス陸軍特殊部隊SAS隊員アンディ・マクナブ著〔ブラボーツーゼロ〕の中でマクナブ氏はこんなエピソードを書いている。
マクナブ氏率いるコールサイン−ブラボーツーゼロ−のSASのティームは特命を帯び、戦地イラクに夜間ヘリコプターで運ばれた…が、様々なミスによりそこは、周りにはイラク軍ひしめく場所だった。
彼等は身動きがとれない。
それでも、その場からの離脱を図るための努力を始める。
そんな中、ワジと呼ばれる枯れ谷に潜んでいると、ヤギの群れがやって来た。
彼等が息を殺していると、ヤギ飼いの少年が谷を覗き込んだ事で彼等の存在がバレた。
緊急事態だ…