「でも、下校時刻までいなきゃいけないって決まりもないですし」
榊は準備室にペレットの袋を置き、手を軽く払いながら言う。
その後ろから肥料の袋を抱えた保坂が歩いてきて、同じように準備室の床に置く。
どん、と低い音が小さく床を揺らしたあと、保坂は頷いた。
「まあそうなんだが、あいつには中三としての自覚ってもんが……」
保坂が言い終える前に、学校に下校時刻三十分前を告げるチャイムが響く。
「……っと、そろそろ部室閉めるか」
保坂は他の部員達に部活の終了を伝え、部室を出るよう促した。
そして下校途中、家が近所の榊と保坂は帰路を共にする。
「……牛原さんのこと、まだ怒ってます?」
榊はおそるおそる保坂に質問する。
「んー、喜んじゃいないけど、あいつはああいうことばっかしてっからなぁ、もう慣れた」
保坂の返答に、榊は微妙な表情を浮かべる。
「ま、簡単に面白いこと思いついて、場を盛り上げてくれるってのがあいつのいいところなんだけどな」
普段は怒鳴ってばかりの保坂が、牛原を評価していることに、榊は笑いがこみあげてくる。
「なんだかんだいって、保坂さん牛原さんを嫌ってるわけじゃないんですね」
生物部にいがみ合いが存在していなかったことに、榊は心から安堵した。