「アブドラ…マスターのご指名だ」
「マスターが?」
「ああ」
「どうして?僕を知らないだろう?」
タックが僕の胸に拳を軽く叩きつけながら小さくささやいた。
「私を捕まえた人と話をさせろだとさ」
マスターが?何故…
「頼むJJ」
タックが珍しく弱気な表情を見せた。
「お手上げなんだよ…」
「タック。僕に任せるか?」
「任せるとは?」
「尋問の仕方も何もかもだ」
ふーっとタックは長い溜め息を吐くと首に手を置きながら頭を振った。
「…ああ…頼む…」
「わかった」
「JJ…パメラの件は…残念だった…」
「いや…僕も言い過ぎたよ、すまないタック」
「お互いめんどうな仕事だよな」
「ああ、まったく」
めんどうな仕事だし汚れ仕事だ
国家やら宗教やら思想やらなんやかんや…
複雑なのが当たり前だろう
人間はそれぞれ違う
だからこそ争いも起こる
マスターはあの時よりだいぶげっそりしていた。
変わらないのは目の強さだった。
拷問の凄まじさは想像に難くない
僕は覆面にサングラスでマスターに対峙した。
「ミスター」
僕はマスターを敢えてミスターと呼んだ。
マスターの表情が微かに和らいだ。
「あなたですね?」
マスターは驚くほど流暢な日本語を話した。
「What?」
僕はわざとわからないふりをした。
「あなたは日本人でしょう?間違いない、絶対にそうだ」
「…」
「わかります。言えないのですね。あなたはアメリカ人ではない。私を押さえ込んだ時にわかりました」
何を考えているんだ?マスターは…
僕は慎重に分析を始めた。
「あなたの取り押さえ方には優しさがありました。アメリカ人とは全く違います。私は日本に住んだ事があります。日本の警察官はアメリカ人の警察官と違います。
アメリカ人は容赦ない。乱暴です。けれど、日本の警察官は配慮します。あなたは日本人だ…中国人でも韓国人でもありません。彼等は東洋人でもどちらかというとアメリカ人に近い激しさがあります乱暴です。あなた方日本人とは違います」
「もし…もしだ…私が日本人だとしたら何なんだ?」
「やはり…思った通りだ…あなたは日本人です。私達はあなた方日本人を心から尊敬しています。日本は素晴らしい国です。私達の先生です」
マスターが意外なほど瞳を輝かせた