美香はじくじくと身を蝕んでくる負の感情に、たまらず唇を噛み締めた。
それは、罪悪感だった。
時間が何度も戻されていたことなど、きっと舞子は知らない。何度も死に追われ、それでも“子供のセカイ”を守ろうと立ち上がり続けた人々のことなどお構い無しに、この世界を乗っ取ったのだ。いや、それどころか、汚い仕事はすべて覇王がやっていたのだろうから、自分が傷つけた人間がいることさえ知らないのかもしれない……。
美香は謝ろうと口を開きかけた。しかし、すぐに思い留まった。
(どうして私が謝らなければならないの?)
悪いのはすべて舞子なのに――。また舞子に対するおぞましい感情が、静かな波のように美香の心に押し寄せた。
「あなたは……他の人達は、そんなに時間を戻しても、何ともないの?」
美香は謝る代わりに、疑問に思ったことを尋ねた。喉がカラカラに渇いている。ミルバは何かを読み取ろうとするかのようにじっと美香を観察したが、やがて淡々と質問に答えた。
「私は見ての通り、神経が図太いからな。恐怖がないと言えば嘘になるが、この通り、精神に異常をきたすほどのダメージはない。他の者たちにも記憶の共有は許さなかったから、私が時間を戻したことを知る者はいない。その結果、私たちは一夜の内に、全面的に舞子たちとの戦闘に破れたということに『なった』。幾度も幾度も戦に臨み、傷つき、倒れたという事実は知られないままね」
「そして、今の形になったということ?」
「ああ。私は極力他の者が死なない方向で歴史が作られるように動き、治安部隊と番人はなんとかそのまま維持することができた。血気盛んな城兵部隊は、あまり多くを救うことができなかったが……。そして私は処刑の際に身体を分裂させる術しかなく、一人で戦う羽目になった。時間を戻したことを知らない周囲の者のほとんどは、私が処刑で死んだと思っている。だがハントは……彼だけは例外だ」
「ハントって確か、治安部隊のリーダーとかいう奴だよな?どういう風に例外なんだ?」
「ハントは私と記憶を共有している。作戦系統の指揮を任せていただけに、時間を戻せるという武器があることを知っておいてもらうより他なかったんだ」
どこか言い訳めいた口調に、美香は少し同情した。誇り高いミルバにとって、それは拭い去ることのできない負い目なのだろう。