取り調べ室に入ると、マスターは机に頭を置き固まっていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫…です…」
「食事だ。勿論食べられないものは抜いてあるから心配ない。長いことたべてないらしいからスープにしたぞ。ゆっくりでいい。食べて落ち着いたら話そう」
マスターの表情が緩んだ。
「ありがとうございます…敵である私に…」
「礼などいらない。食べろ」
マスターは祈りを捧げゆっくりスープを啜りだした。
おいしい…
おいしい…
マスターは繰り返し呟いた。
僕はその間マスターを観察し続け、その裏に隠された思惑を探ることに集中した。
しかし…
何故かマスターの裏の意図がつかめない。
僕は犯罪心理学もFBIの行動心理学もプロファイリングも学んできた。
尋問も初めてではない。
けれど見えない…
マスターはとてつもなく頭がいい男だ。
よほど心を統制する能力が高いのか…真実、僕ら日本人に畏敬の念を抱いているのか…
「ご馳走様でした」
マスターは丁寧に頭を下げた。
それにしても日本語がうまい。
日本の若者より遥かに綺麗な正しい日本語を使いこなす。
「それにしても日本語がうまいな?」
「そうですか?本当にそうですか?」
マスターが瞳を輝かせ僕を見つめた。
「ああ、まるで日本人だ。よほど勉強したんだろう?」
「7年住みました。皆さんいい人ばかりでした。私は宮城県にも住みました…だから、日本の友人が心配なのです…私を助けてくれた人達が…」
「そうか…」
「でも日本は復活します。必ず。あの敗戦後の日本は驚異的です。あれほど短期間で世界第二位の経済大国になったのですからね。
世界一素晴らしい国です。
アメリカなどくだらない国です。
アメリカの文化など廃退そのものです」
マスターは顔を赤くしながら喋り続けた。
「ところで、いったいいつ復讐するのでしょうか?」
マスターが声を極端にひそめながらささやいた。
「復讐?」
「そうです。アメリカに復讐するのでしょう?日本は」
「意味がわからない」
「アメリカは原爆で日本人を大量虐殺しました。その恨みを晴らすのはずです、日本の人達は」
この言葉を僕は色々な国で言われた。
イランに日本人旅行者に化けて入った時も、イラクでも言われた。
いつアメリカに復讐するのか?
復讐か…