「そんな事は私にはわからない。復讐など考えてはいないだろう、多分日本人は」
「そんなはずありません。あれほど酷い目にあったんだ。復讐しないなんてありえない!」
マスターは懇願するような眼で見つめた。
「その話はおしまいだ。それよりどうしてあんな幼い子供達を自爆の道具なんかにするんだ?気は確かか?」
「え?」
マスターは心底、意外 という顔をした。
「何を言っているのですか!あなた方日本人が考え出した事ではないですか…9.11あれはまさしく神風特攻隊がお手本です。日本はサムライの国。腹切りの精神です。凄い勇気です。自らを武器とし爆弾となる。私達の先生です!」
違う!
その言葉を僕は発せられなかった。
じいちゃんの言葉がフラッシュバックしたからだ。
あれは暑い暑い終戦記念日だった。
小学生の僕は仏間で独り言を言っているじいちゃんを見つけた。
じいちゃん…
声を掛ける事が憚れるようなじいちゃんの後ろ姿に僕はただその場に立ちすくんでいた。
どの位時が経ったのか…
じいちゃんは振り返ると
おう…と声をかけた。
いたのかい…
生粋の江戸っ子のじいちゃんらしいしゃきしゃきした声が響いた。
酒を呑んでいたらしいじいちゃんは僕を呼び寄せると、一人語りを始めた。
そして珍しく戦時中の話をしだした。
じいちゃんに戦争の話を聞こうとすると決まって、いつも、うん…と言ったきり黙りこくるのが常だった。
その横顔は子供の僕からみても苦痛に溢れていた。
そんなじいちゃんが戦争を語り始めたのだ。
「おらあよ、飛行機乗りでよ、いわゆるなんだあ、特攻隊ってやつでな。いつ死ぬかもわからねーってやつよ。みんな若かったあ。二十歳前なんてザラよ。今ならただのガキだぜ、な。なのによ、死ぬってえ事がよ、わかっちまってんだな…次から次ぎへとよ、戦友が飛んでく。片道燃料でよ。ひでえ話よ。飛ぶ前の日はよ、みんなやっぱりな…かわいそうによ…俺はよ、抱き合って泣いたもんよ…みんなお国の為、家族の為だってよ、飛んでったよ。でもな、命令しやがる上官なんかでよ、俺も後からイクからななんて口先ばあっかりのよ野郎がいてな、そんな野郎は飛んだためしがねえんだ、後から大将なんて言われた連中よ。そんな奴らは戦争終わった後、のうのうと生きてやがった。ったく馬鹿な話よ…でもよ、この老いぼれもよ…同じ穴の狢よ…」