じいちゃんは一息に酒を飲み干すと、キッと口を一文字にし宙を見つめた。
「俺もよ、嘘つきのコンコンチキになっちまったんだよ…後から大将みてえなよ…俺が飛ぶ前によ終戦になっちまったんだよ…みんなあよ、やりてえ事が山ほどよあったのによ、水杯交わしてよ…ヒロポン(覚醒剤)打ってよ…死んでったのによ…生き残っちまったんだよ…情けねえったらありゃしねえ…おらあよお陀仏になったらよ…まっつぁきに靖国に行ってよみんなに詫びいれなきゃなんねえんだ…許してもらえるかあわからねーけどよ…土下座でもなんでもするつもりよ…」
その時じいちゃんは泣いていた。
じいちゃんの涙を見たのは最初で最後だった。
それから間もなく、じいちゃんは死んだ。
死ぬ間際、じいちゃんは僕の手を握りしめてこう言った。
「いいかい、てめえが嫌な事を他人にやらせるんじゃあねえぞ。そんな男になっちゃあいけねえよ。わかるよな。おらあよ、死に損ないの馬鹿野郎のまんま生きてきたけどよ…おめえが生まれたときにはよ…心底嬉しかったぜ。あんがとよ。おめえはいい男になるぜ。だからよ、情けねえ野郎にだけはなるんじゃねえよ。じゃあな」
そう言って息を引き取った。
じいちゃん…
そうだよな、考えたら、当時の日本の軍部の上層部もマスターのやってる事と変わらないんだよな…人を人とも思わずに道具として使ったんだよな…
多くの犠牲者を作り出したのだ。
その犠牲の礎があって今の日本があるのだ。
マスターはじっと僕を見つめている。
「ミスター、確かに日本はあの時、若者達を道具として使った。あれは誤りだ…一部の頭の悪い連中が若者達を殺したんだよ。だからこそ僕は君達がしている事を止めたい。今の日本の繁栄があるのはアメリカに対する復讐など放棄して懸命に働いたからだ。殺し合いはキリがないんだ。だったらそんな事やめて皆が幸せになる事を考えるべきだろう?君も日本に住んだ事があるなら聞いた事があるだろう?水に流すという言葉を」
「はい」
「日本人のある意味特性で素晴らしい感性として水に流すという感覚がある。恨みの連鎖はキリがないだろう?」
「…」
「ミスター、教えて欲しい。どうしたら君達はテロをやめるんだ?」
マスターはくうっと背筋を伸ばすと天井を見上げた。
「恨みを忘れろと?私達に恨みを忘れろと言うのですか?アメリカは自分達のやりたい放題…」