灰原は公園で寝泊まりしていた。
自分が追われている身だという自覚はあったが自分の身の上から警察は下手には動けないはずと考え、1週間ほどは余裕があると考えていた。
午前9時頃、灰原は行くあてもなく歩き始めた。
「てか警察の奴ら捜査できんのか?
HAPI自体どこにあんのかわかんないだろうから俺が何県にいるのかさえわかんないはずだ。」
「まぁいいか…」
灰原は自分が何をしたいのかわからなかった。
ただ空を見上げながら歩いていた。
物心ついた直後から施設に入り、鮮明に思い出す記憶は大半を施設内のことが占める。
自分がいた部屋の小さな小さな窓から覗いたのは狭い狭い空であった。
施設を脱走し、今初めて見た空は想像を遥かに上回るほど雄大であり、表情を変える雲も、撫でるように感じる風も、肌に刺さるような陽の光、その全てが灰原を虜にした。
空を仰ぎながら歩いていたせいで前をみておらず、灰原は車道に飛び出してしまい、
キューーーーーッ
ドンッ!
反応できなかった車に跳ねられてしまった。