マスターは咳き込み身体を震わせながらアメリカへの恨みを吐き続けた。
僕は黙って聞いていた。
マスターの言い分には正直共感する部分が多々ある。
何故アメリカが世界の基準なんだ?
何故自分達だけが正義なんだ?
アメリカは強大な武力で我々を虫けらのように殺戮しているではないか!
イスラエルも同じだ!
まくしたてるように怒りをぶちまけたマスターは、荒い息を鎮めるように黙り込んだ。
「アメリカが変われという事か?」
マスターが僕を見つめた。
「アメリカが変わればテロをやめるのか?」
「そうです…アメリカは他国への干渉をやめるべきだ…自分達の利益の為だけに勝手な理屈をでっち上げて…力にものを言わせてねじ伏せるような真似をすぐにやめるべきだ…我々には強大な武力は無い…しかし強い意思はある…」
マスターの瞳はそれがはったりでは無いことを示していた。
僕自身、彼等の底力は身にしみて理解している。
旧ソ連邦がアフガン侵攻した際、アフガンのムジャヒディンといわれる戦士達は、ソ連の兵士を苦しめ続けた。
彼等はソ連兵を捕らえると、身体の皮を剥ぎ、喉を切り裂きそこから舌を引き出し晒した。
ソ連兵の士気を低下させる為だった。
また、彼等の体力はずば抜けていた。
彼等に携帯式ミサイル スティンガーなどの操作訓練任務にあたった、当時SAS隊員だったギャズ・ハンターはこう回顧している。
〔ともかく彼等の体力には現役のSAS隊員だった私も舌を巻くほどだった。アフガンの山岳地帯を彼等はタイヤから作った草履を履いて、ひたすら歩き続ける。それが速い。始めは付いていくのがやっとだった。それに、士気の高さは凄まじいものだった〕
そして、ソ連はアフガンからの撤退を余儀無くされたのだ。
現実、アメリカもソ連と同じ轍を踏む可能性は高い。
オバマ政権はアフガンからの米軍撤退を予定している。
それは通常兵力であり、今後は我々のような特殊部隊の任務が更に増えるという事だ。
けれど、終わりなど見えない。
互いに殺戮を繰り返すのか?永遠に…
「悲しいな」
「何がですか?」
「もしかしたら、私達は友人になれたのかもしれない。しかし…このままでは永久に敵だ…同じ人間なのに…」
「あなたは選ばれた兵士ですね?特殊部隊ですね?海兵隊やレンジャーでは無い。全く違います」
「…」